サーモン・リターンズ ~いつか帰るその日まで~②

2025-04-10

/ by toyomi

こんにちはトミーです。
大分暖かくなって、桜のつぼみが膨らんできました。春ってワクワクしますね。
さて、この間の続きを…。

卵から生まれた鮭の稚魚は、まるで冒険に出る準備を整えたかのように、鮭のゆりかごと呼ばれる浅い水域を卒業し、次第に水深の深い場所に移動していきます。ここで彼らは本格的な“社会”の一員として、他の仲間たちと出会います。いわば、稚魚の社会生活の始まりです!

乾燥配合飼料などの餌を食べ、彼らの体長はみるみる大きくなり、あっという間に4~5cmにまで達します。小さな体から、元気なヒレとパワフルな泳ぎが見られるようになると、海の冒険者としての準備は万端となります。

そしていよいよ旅立ちの時…令和7年2月23日。鮭の稚魚の放流会。

今回の放流会は、枡川鮭人工ふ化場です。
旅立ちの日に相応しい冬の晴れ間の寒い日でした。
枡川鮭漁業生産組合尾形修一郎さんのお話を伺いました。命を頂くという事を考えさせられる深いお話でした。

尾形さんのお話はこういったものでした。
「遡上してきた元気に跳ね回る鮭に対して、急所をパッと締めていたその時。
その一瞬の動きに、鮭たちは大きな違和感を覚えたかもしれません。
急所を外れて、逃げる鮭もいました。まさに、命のやりとりが一瞬で決まる現場。
その光景を目の当たりにして、思わず『こんなことが許されるのか?』と心の中で問いかける瞬間がありました。

もし、このようなことがあなたの奥さんに対して行われたらどう思いますか?
急所を外れた鮭と同じように、予期しない扱いを受けたとしたら。
鮭と人間はもちろん違いますが、どちらも命を持つ生き物であり、大切に扱われるべき存在です。
魚や動物だって、きっと痛みを感じているはずです。
その時、私たちは一体どうすべきだったのでしょうか?

誤った鮭の扱いをしていたと感じたその時、心の中に一つの大きな疑問が生まれました。
人間も、動物も、同じように大切にしなければならないのでは?と。
そんな問いを持っていたときに、北海道の北見の指導員の方に教えられたことがあります。
『命を扱うということは、深い責任が伴う。だからこそ、どんな生き物でも大切にしなければならない。』
という事です。」

尾形さんたちがこうした思いを持って事業に取り組むようになったのが、十数年前だったそうです。
学んだことで、鮭たちに対する扱い方も大きく変わり、鮭たちはより健やかに育ち、
尊厳をもって命を全うすることができるようになったそうです。

「このように、人間と動物は違う存在であると同時に、命の大切さに対する尊重は同じでなければなりません。
私たちが鮭を育てる過程で学んだのは、まさにそのことです。どうか皆さんからもそういった視点で鮭の事を見て頂ければ、決して我々だけの鮭ふ化場ではなく遊佐全体のひとつの財産、魅力としてさらに応援して頂けたら有難いと思っています。これからは温暖化も一層進むと思いますが、鮭という資源を維持増進していきたいと思います。」

尾形さんのお話を心に刻み、バケツに入った稚魚を預けられた瞬間、私はもう「親心」が芽生えていました。
「元気で帰って来いよ」と願う気持ちが胸に込み上げてきました。
みんなでバケツを持ち、川沿いに一斉に並んで放流。
あの瞬間、まるで親鳥が子を巣立たせるかのような気持ちになり、「元気に帰ってこいよ!」と
心の中で何度もつぶやきながら放流しました。

そして、思わず「これが鮭の放流、初めての母親気分ってやつだ!」と、
くすっと笑いながら振り返ったのでした。

ここから鮭の稚魚たちは、川を下り、海へと出て、北へ北へと進んでいきます。
秋ごろにはオホーツク海へ到着し、冬には北大西洋西部を泳いでいることでしょう。

その後、ベーリング海⇒アラスカ湾⇒ベーリング海⇒アラスカ湾と、南北移動を繰り返して4年(3~5年)!
まるで地球一周旅行のように冒険を重ね、ついにあの大きな成魚になって日本に帰ってきます。
なんだか“帰ってきたぜ!”というセリフが聞こえてきそうですね。
生まれた川の匂いを覚えていて、そして遊佐、枡川に遡上してくるはずです。

鮭が川の匂いを覚える仕組みは、彼らの「嗅覚」に大きく関わっています。
鮭は魚の中でも特に発達した嗅覚を持っていて、川の水に含まれる化学物質(匂い分子)をしっかり感知します。この匂い分子は川特有のもの—例えば水流や土壌、植物の成分—が絡んでいるので、鮭はそれをまるで「名探偵コナン」ばりに嗅ぎ分けるんです。

さらに、鮭の脳には「嗅覚球」という部分があって、ここで匂いの記憶をバッチリ処理します。
産卵のために川へ戻る際、この記憶を頼りに、無事に川を辿ることができるんです。
鮭は自分の生まれた場所の匂いと一致する水域にたどり着くと、まるで「ただいま!」と言わんばかりに産卵を始めます。遊佐の湧水も、鮭にとっては「故郷の香り」としてバッチリ記憶されているんでしょうね。
きっと、鮭たちは心の中で「やっと帰ってきた!」とホッと一息ついていることでしょう。

こうして命のリレーは続いて行くんだなー…

「命を扱うということは、深い責任が伴う。だからこそ、どんな生き物でも大切にしなければならない。」
という重い言葉の通り、滝淵川側には供養塔が立っています。
鮭たちの命を大切にするということは、自然と調和し命の尊重する姿勢を形にしたものだと思います。

 

鮭漁業生産組合の方々が、北海道北見の指導員から教わった言葉、「命を扱うということは、重い責任が伴う。だからこそ、どんな生き物でも大切にしなければならない」という言葉は、鮭の命を扱う際の心構えを示しており、動物への配慮や責任感を呼び覚まします。この思いが鮭の扱い方を変え、鮭たちはより健やかに育ち、尊厳をもって命を全うすることができるようになったのです。

こういった教えは、実は昔から様々な形で伝えられていて、その一部は今でも民話や昔ばなしとして残っています。

 

(出展:日本財団海と日本 民話の町プロジェクト2024)

遊佐で伝わる民話が「鮭を招く石」です。
永泉寺に住み着いた猫のおはなし。
その猫が毎日鮭をとってくるので、不思議に思った和尚さんが川へ行くと
鮭が川面を埋め尽くすほどにあふれかえってる。
その中心には鮭を招く石がありました。原因を突き止めた和尚さん。
その話を聞いた村人が石を和尚さんからもらい受けました。その村の漁業はおおいに栄えましたとさ。

他にも山形県や新潟などに伝わる民話「鮭の大助」は知っていますか?

(出展:YouTube ふるさと塾アーカイブス 2016)

この話は、
鮭の王様が産卵のために帰ってくる日には、漁を休み、
これを破るものは不幸になるという「戒め」のお話。
人間も動物も、生命を持つ存在として平等に尊重されるべきだという教訓が強調されています。

 

 

今回取材を続けていたら、遊佐の鮭に深くのめり込んでいました。
私はこの取材を通して、命の尊厳を守ることがいかに深い責任を伴うかを改めて実感しました。
鮭を育てる過程や、地域の民話に触れることで、命を尊重することがどれほど重要か、そしてそれがどれほど私たちの日常に深く結びついているかを強く感じました。
鮭という存在が、単なる生き物としてではなく、私たちの遊佐町の文化や伝統、そして自然とのつながりの象徴として存在していることを理解できました。

命の大切さを認識し、尊重することは、動物に対するものだけでなく、私たち自身の生き方にも深く関わっていると感じました。鮭の命を通じて、私たちがどれだけ自然に感謝し、調和を保つことができるのか、それが地域や社会全体にどれほど良い影響を与えるかを考えさせられました。

また、温暖化などの環境問題が進行する中で、鮭を守ることの重要性はますます高まっています。
自然を守り、命を大切にするという価値観を持ち続けることで、未来の世代にもこの美しい命の循環を伝えていくことができると信じています。この取材を通じて得た教訓は、私自身の生き方にも大きな影響を与え、今後の行動や考え方に変化を与えてくれる気がします。

鮭という生き物を育て、尊重し、守っていくという姿勢は、ただの一地域の活動にとどまらず、私たち全員が学び、実践すべきことだと感じました。この思いを共有し、地域全体で鮭を支えていくことが、自然との共生を深め、持続可能な未来へと繋がっていくと確信しています。

by トミー