「ウイスキーの町 遊佐」はじまる。
2つのウイスキー蒸留所が立地する遊佐町が歩む未来とは────
こんにちは、ぺいたんです🙋🏻♂️
当日Facebookでも速報しましたが、2025年10月31日遊佐町は「ウイスキーの町 遊佐」宣言を発表しました!

左から、遊佐蒸溜所 佐々木代表取締役社長、松永町長、月光川蒸留所 佐藤代表取締役
実は、ひとつの町に2つのウイスキー蒸留所があるのは、全国でも北海道の余市町と遊佐町だけと言われています。
そんな遊佐町の新しい一歩となる宣言式と、その後に開催されたメディア向けの「ウイスキーツーリズム」に同行して取材させていただきました。
実際に体感した遊佐産ウイスキーの奥深い世界をお届けします!
┃世界へ向けた第一歩。合言葉は「遊佐サイド」
宣言式が行われたのは鳥海温泉遊楽里の鳥海文化ホール。
松永町長から「ウイスキー文化を育み、遊佐町の自然の豊かさを国内外に発信し、次世代につながるまちづくりを進めていきたい。」という熱いメッセージが語られました。

「地域資源を生かした観光開発」ということが町の総合発展計画に掲げられていて、ウイスキーの町宣言はその目玉になり得る取り組みです。
2つの蒸留所を持つ遊佐町だからこその観光をつくりたいという想いが、宣言の根底にあるのだと感じました。
そして、宣言式の中で特に印象的だったのが「遊佐サイド(YUZA-SIDE)」という言葉。

ウイスキーの本場スコットランドにある一大生産拠点「スペイサイド」になぞらえ、2つの蒸留所が切磋琢磨するこの場所を「遊佐サイド」として世界へ発信していこうという構想です。
なんだかワクワクする響きですよね!
「遊佐サイド」構想を語る遊佐蒸溜所 佐々木社長の目は、すでに世界を見据えているようでした。
┃情景が浮かぶ、美しい味わいと透明感【月光川蒸留所】
式の後はいよいよ、その「遊佐サイド」を巡るツアーへ出発です。
まず訪れたのは、2023年に稼働したばかりの「月光川(がっこうがわ)蒸留所」。

海・山・川が交わる場所に建つ月光川蒸留所では、その特徴的な情景が浮かぶような、きめが細かく透明感のある、「美しい」ウイスキー作りを目指しているそう。
蒸留庫を満たすフルーティで華やかなアルコールの香りは、確かにその姿を感じるものでした。

稼働から2年。真新しい蒸留施設です

蒸留釜(ポットスチル)から出てくるのは、無色透明の原酒「ニューポット」
そして、ウイスキー作りの思いをここまで体現するか!と驚いたのが、貯蔵棟の中に水路が流れていること。

月光川の名前にちなんで作られた、くみ上げた地下水を流す水路
これは単に月光川にちなんだ演出ではなく、湿度を保つための工夫でもあるのだとか。
冬でも湿度が70%程度に保たれた環境で、樽たちは静かに呼吸をしていました。

その樽の中で眠るのが、蒸留器から出てきた「ニューポット」。
‟ウイスキーの赤ちゃん”なんて例えられることもあるこの透明な原酒が、熟成を経るにつれ琥珀色に変化していくんだそうです。
ニューポットの香りは、麦芽の面影を色濃く感じる、力強くも瑞々しいアルコールの香り。
じっくりと樽で熟成されて、これからどんな味に成長していくのかとても楽しみです!
※ジャパニーズウイスキーの名前を冠するためには、日本洋酒酒造組合が制定した「最低でも3年間樽での熟成が必要」という自主基準があります。2023年に稼働を始めた月光川蒸留所は現在はニューポットの販売を行っていて、ウイスキーの発売は2027年の春頃を予定しています。
┃命はぐくむ清冽な水【箕輪孵化場(牛渡川)】
続いては牛渡川にある箕輪孵化場へ移動し、鮭が清らかな水の中を泳ぐ様子を見学。
かつて「川を真っ黒に埋めつくすほどの鮭が遡上してきていた」という状況とは異なってしまっていますが、鮭という生き物の存在を通して水資源の豊かさを感じることができます。

今回参加した報道関係のみなさんも、その水のきれいさに見入っていました。
┃木桶が醸すクリーミーな香り【遊佐蒸溜所】
次に向かったのは、2018年から製造を続けている「遊佐蒸溜所」。

蒸留室に一歩足を踏み入れると、優しい酸味を感じる香りで身体が包まれました。
それだけで酔ってしまいそうなくらい深みがあるその香りの秘密は木桶。
遊佐蒸溜所では木桶を使い麦汁を発酵させていました。

木桶の存在が印象的な蒸留設備
発酵に使う桶はステンレス製が多いそうですが、遊佐蒸溜所では木桶を使用。
木桶に棲みついた乳酸菌の働きで、クリーミーですっきりとした味わいが生まれるそうです。

チーズやヨーグルトを思わせる柔らかな酸味のある香りが立ち込めます
蒸留器(ポットスチル)はどこの蒸留所もオーダーメイド。遊佐蒸溜所では釜の部分と冷却器の部分をつなぐラインアームが長いことが特徴的です。

左手前が蒸留釜、右奥が冷却器、それらを長いラインアームがつなぎます
そして、冷却器の中で活躍するのが、我らが遊佐町の水!
敷地内でくみ上げた地下水を使い冷却をしているとのことで、水の温度が低いため香りを逃がさずに蒸留できるのだと、佐々木社長が教えてくれました。
さらには、冷たく大量に湧き出る地下水を冷却に使用することで冷却にかかる電気使用量を減らせるため、生産コストや環境負荷を抑えることにつながっています。
いやあ~、遊佐の水大活躍!

(釜磯海岸の湧水)
※写真はイメージ。実際に製造に使用している水とは異なります。
また、熟成庫では、あえて元の地面を残す建物の造りにすることで自然に近い環境で湿度管理をしているということ。
やはり目指す湿度はおよそ70%とのことですが、蒸留所によって採用する手法の幅がこうも広いのかと驚きました。

ラムレーズンのような甘いアルコールと樽の木の香りが立ち込める熟成庫
同じ遊佐の地を選びすぐ近くにある蒸留所なのに、目指す味も施設の作りも、建物に漂う香りも全く違う。
「ウイスキー作り」と一言で言っても、そこには作り手ごとの全く違う哲学があることに感動してしまいました。
┃遊佐の食材×ウイスキーのマリアージュ
ツアーの締めくくりは、稲川まちづくりセンターでの試飲会。
酒田市のフレンチレストラン「Restaurant Nico」の太田シェフによる、この日のための特別メニューとウイスキーのペアリングが提供されました。

太田シェフは、どちらの蒸留所のウイスキーも香り高いことが特徴であると捉え、その香りに合うメニューを考案したと話します。
「遊佐町の色鮮やかな印象をイメージした」というお料理の見た目も非常に華やかでした。

創造性あふれるメニューの中でも特に、新しいウイスキーの楽しみ方を提案している点で印象的だったのが、月光川蒸留所のニューポットを使った和梨とすだちのハイボールです。

梨もすだちも遊佐産を用意されたそうです。
月光川蒸留所の社員の方が今回のために考案したという、ニューポットを核としたこのハイボール。
月光川蒸留所の佐藤社長も口にされるのは今回の場が初めてのご様子で、
「モルトの香りが強くマニアックな人しか飲まないニューポットだが、多くの人が飲めるものになっている」と舌をうならせていました。
ご自身は普段このような飲み方でウイスキーを味わうことはあまりないそうですが、「ハイボールと料理の香りのバランスがちょうどよくなっている」と、ウイスキーの楽しみ方の新しい可能性に驚いた表情が印象的でした。

遊佐の素材を使ってこんなにも素敵なマリアージュが生まれるとは、ウイスキーを通して遊佐町の魅力がますます広がる可能性を感じる時間でした。
┃ウイスキーで広がる遊佐暮らしの楽しみ方
遊佐町に移住してきて日本酒の美味しさに驚いた僕ですが、今回のツアーを通して、ウイスキーという新たな楽しみが加わりました。
単にお酒を飲むだけでなく、その背景にある「水」や「人」、そして蒸留所のこだわりを知ってから味わう一杯はきっと格別でしょう。
これから「ウイスキーの町」として、全国、そして世界へその名を広げていくであろう遊佐町。
皆さんもぜひ、現地でこの「遊佐サイド」の香りと息吹を体感してみてください!

【謝辞】
本記事の執筆にあたり、当日の取材や記事作成において月光川蒸留所の皆様、遊佐蒸溜所の皆様、Restaurant Nicoの太田シェフ、その他関係者の皆様にご協力を賜りました。この場を借りて感謝申し上げます。誠にありがとうございました。
(文・白井駿平)