邪気を払う音が響く夕暮れ
こんにちは、トミーです。
2025年6月4日、旧暦の端午の節句にあたるこの日、山形県遊佐町中吉出集落では、
子どもたちによる民俗行事「菖蒲たたき」が行われました。
この行事は、旧暦5月4日に子どもたちが束ねた菖蒲(しょうぶ)の葉と藁で作ったたたき棒を地面に叩きつけることで、邪気や悪霊を払い、無病息災や五穀豊穣を祈るという伝統のある民俗行事です。菖蒲やヨモギの香りとともに地面に響く音には、古来より魔除けの力があると信じられてきました。
午後4時、中吉出集落センターに子どもたちと保護者、地域の方々が集合。まず始まったのは、なんと地区のゴミ拾いでした。取材に伺った私と渡辺力隊員(リッキー)、町の広報担当の風間主事も皆さんと一緒に、地域をぐるりと一周。
ところが、探してもなかなかゴミが見つかりません。「きれいな地域だなあ」と感じたのが正直な感想です。途中の池には、赤い尾びれをなびかせて泳ぐ金魚や鯉のような魚の姿も見られました。歩きながら、保護者の方にお話をうかがうと、かつてこの行事は男の子だけのものだったそうですが、子どもの数が少なくなった近年では女の子や幼稚園の年長さんも参加するようになったとのこと。今年度は小学校1・2年生が不在で、園児たちが立派にその役割を担ってくれました。
陽が傾き始めたころ、いよいよ「菖蒲たたき」が始まりました。
♪ 五月の節句 祝いの菖蒲たたき 祝いの菖蒲たたき オマケに1つ ♪
♪ せーの 五月の節句 祝いの菖蒲たたき 祝いの菖蒲たたき オマケに1つ ♪
先に一人が掛け声をあげ、周囲の子どもたちが続けて唱和。その手には、地元の佐藤敏郎さん手作りのたたき棒が握られていました。縄でしっかりと巻かれた菖蒲の葉とヨモギで作られた特製の棒を、勢いよく地面に叩きつけるその姿は、小さな体ながらもとても力強く、頼もしく感じられました。
子どもたちは中吉出集落の各家庭を回り、玄関先で菖蒲たたきを披露。ご祝儀やお菓子をたくさんいただいて、袋がどんどん膨らんでいきます。地域の人々が笑顔で見守るなか、子どもたちは嬉しそうに声を張り上げていました。
最後は、集落のお地蔵様の前で、全員で一斉に地面を叩き、邪気を祓う締めの一打。行事のフィナーレを飾るこの一場面には、地域の想いと歴史がぎゅっと詰まっているように感じました。
その後は集落センターに戻り、参加した子どもたちはたっぷりのお菓子を手に、満面の笑顔で家路につきました。
この「菖蒲たたき」は、ただの昔ながらの行事ではありません。世代を越えて受け継がれる地域の知恵と祈り、そして、子どもたちと地域の人々との心の交流が息づく時間です。かたちを変えながらも、大切に守り伝えられているこの風習には、私たちの暮らしの根底に流れる“つながり”の力を感じずにはいられません。
来年もまた、元気な掛け声が、遊佐の夕空に響きますように。 by トミー